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An unforgettable patient [医療・麻酔]

腸閉塞の緊急手術のたびに思い出す患者さんがいる。

私が外科医としての生活を始めて4ヶ月たったころのことだった。
70代の男性のAさんという患者さんが,腸閉塞のため,私が1年目にいた病院から紹介されてきた。私の内科研修の時の師匠が担当だったようで,おそらく手術が必要だろうと申し送られた。

Aさんが入院された後,こちらでも少し様子を見ようということになり,イレウス管をいれたまま経過をみていたが,週末になって突然腹痛が強くなり,鎮痛剤も効かなくなった。血液検査で著明な炎症所見と多臓器不全の所見を呈していた。

これはおかしいということで,直ちに緊急手術を行うことになった。
開腹してみると,果たして回腸の捻転により回腸がほとんど壊死してしまっていた。壊死した回腸を切除し,人工肛門を造設した後,閉腹している時に突然心室細動となった。壊死した腸から流失したカリウムによる高カリウム血症が原因と考えられた。麻酔科の先生のお陰で,何とか自己心拍が再開し,ICUまでたどり着くことができた。

震える足を隠しながら・・・外科の指導医と共に,ご家族に説明したことを今でも覚えている。

ICUにAさんを収容し,いろいろな先生に協力してもらいながら,循環管理,呼吸管理や透析などを行った。ICU入室時のAPACHE-IIによる院内予測死亡率は80%を超えていた。それでもAさんの生命力は強く,10日間の集中治療の末,何とか危機的な状況を脱することができた。

しかし,ICUから一般病棟に帰室できたものの,経過は順調とは言えなかった。
残存小腸はたったの1.5 mしかない。空腸に作られた人工肛門から多量の腸液が排出され,電解質がくるうため輸液管理も難しかった。おまけに短腸なので栄養状態もなかなか改善しない。そのせいか創感染やら吻合部のリーク,中心静脈ラインの感染を発症して,術後管理には難渋した。
それでも病院から脱走するまでに回復し,師匠のいる搬送元の病院に転院した。

Aさんは,再び腸閉塞になったり,洞不全症候群になってペースメーカーを入れたりと,紆余曲折があったのだが,最初の手術から約1年後に,外科研修終盤の私の執刀で,人工肛門の閉鎖と狭窄した小腸の切除を行うことができた。
私が外科研修を終えて,整形外科をまわっている頃に,Aさんは退院して自宅に戻った。Aさんはしばらく元気に近くの診療所に通っておられたのだが,数年後に肺炎でお亡くなりになられた。

私は1年半の外科研修の多くの時間をAさんと一緒にすごした。
そしてAさんから多くの,本当に多くのことを教わった。

牙をむいたときの腸閉塞がいかに恐いか
開腹手術に踏み切るタイミングがいかに大事か
術中の麻酔管理の大切さ
集中治療の大切さ,面白さ,苦しさ
腸が短いことがいかに大変なことか
栄養状態が悪いことがどんなにつらいことか
そんな状況で感染の制御がどれだけ難しいか
笑顔が戻ることがどれほど素敵なことか
他にもたくさん

そして
人の命の強さ

Aさんに会って,私は周術期の全身管理や集中治療をライフワークにしたいと思い,
外科医になることをやめ,麻酔科医という道を選んだ。


腸閉塞の緊急手術のたびに思い出す患者さんがいる。
Aさんに出会わなければ,私は麻酔科医になることはなかった。

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